Mr,エンペラのライヴレポート

Jazz Guitar Duo at The Ginza 8th Street
銀座BRBクラブハウス / 4月15日(木)
Gt: 中牟礼貞則 Gt: 萩谷 清


まず、今回のライブのロケーションのご説明から。
ここ銀座BRBは、慶應義塾大学の教職員を対象にした会員制クラブハウスで、
先生たちの親睦会や研鑚セミナーなどに使われている施設です。
つまり早い話が、慶應の教授専用の会員制バーだったんですね?
そこのセミナールームを改装、この4月から「お酒を飲みながら静かにジャズ
が聴ける」パーティルームへとリニューアルしたので、これからは一般の人達
にもどんどん利用してもらいたいということでした。
贅沢なもので、グランドピアノとウッドベース、ドラムセットにギターアンプ
(ツインリバーブ!)、PAまでもが常設してある。
これって、アマチュアの貸し切りライブにもかなりいいんじゃないの?

しかし、しかし、この日はアマチュアどころじゃない、日本ジャズ界の大御所、
中牟礼貞則さん(ジャズ・ギター・プロ歴52年!渡辺香津美の師としても有名)
をゲストに迎えてのデュオ・ライブなのです!
BRBクラブマスター山崎さんが、「こんな巨匠お二人の共演自体が、まず今後
もありえない。それがいきなり当クラブでやっていただけるとは。」
と、何度も言われていたのが印象的。
そして我らが管理人氏も、「大、大、大の敬愛する中牟礼さんと一緒にやると
いうことで、この一週間はずっと興奮しっぱなしでした」とリスペクト溢れる
MCを捧げていました。

少し早めに会場に着いた私は中牟礼さんにご挨拶でき、演奏前の打ち合わせの
テーブルにも同席させていただいたんですが、やはりオーラがびんびんで緊張
します。 しかし当のご本人はいたってフランクで曲の打ち合わせも、
「何やろうかね? 曲目だけ書いてくれてメモを置いとけばいいよ」
 とかなりアバウト。
そしてやはり、元祖ギター少年(というには恐れ多いのですが・・)だけあり、
ご自分の今日のギターやピックアップのこと、アンプ談義等々、もっぱら楽し
い話に脱線しがちで、こちらもそのお人柄にだんだんリラックスできました。

中牟礼「"All The Things" といったら、あのときあそこで一緒にやったねぇ。
     ほかに誰がいたっけ? 僕はあなたしか憶えていないんだ」
清師匠「いやーっ、あれは忘れてください」

などと、興味深い雑談をそばで聞かせていただいていると、そこに青江会長も
遅れて到着。すぐに「スリー・ブラインド・マイスがどうたらこうたら・・」
「渡辺貞夫さんとどうしてこうして・・・」などと、中牟礼さんの業績にまつ
わるジャズ談義で由緒深いファンぶりを発揮、点数を稼いでいる。 
ううむ、このソツのなさ、我らの会長もさすがの人物である。

ともあれ、いよいよ待ちに待った演奏開始。
本日の楽器は萩谷師匠がお馴染みのギブソンL5シグネチュア。
アンプはAER BINGOです。 
かたや中牟礼さんはギブソンES-175(1958年製)で、PAFではなく、
P-90シングルコイルピックアップ付き。
リアピックアップは取り外して、ピックアップカバーがダミーで付けてある。
切り替えスイッチおよび、リア用のボリューム、トーンノブまで取り外し、
穴はきれいに埋めてある、徹底したジャズ仕様のカスタマイズになっています。
アンプは会場置きのフェンダー・ツインリバーブ。

■第1セット
1. ステラ・バイ・スターライト
  一曲目は中牟礼さんのフリーテンポソロから演奏が始まります。
  中牟礼さんのギターというのは、ジム・ホールのあのギターを想像して
  もらえばほぼ間違いなく、トーンもですが、フレージング、和音づかい
  がまさにジム・ホール。あのワン・アンド・オンリーの、誰も似せるこ
  とはできないのではないかと思われた趣味のよさ、音楽性がまさにその
  ままの形で現出されます。
  「こんなに似てていいのか?」という疑問が頭をもたげてこなくもない
  のですが、ここまでの深みをもって聴かせられると、「いいのだ!」
  としかいいようがありません。
  もちろん、フレーズのコピーなどという次元のことではなく、精神性ま
  で引き継がれた偉業をみて感動してしまうからでしょう。
  インテンポになってから、萩谷師匠がバッキングを重ねていくと思わず
  ジム・ホールとビル・エヴァンスのコラボレーションアルバム「アンダ
  ーカレント」を連想してしまいます。 決まりきったリードとバックの
  役割分担ではなく、コール・アンド・レスポンスで 当意即妙に二人で織
  り上げていくあの感じにそっくりだったんです。ギター同士ということで
  いうと、「ジム・ホール・イン・ベルリン」での一人多重録音にも近い。
  なぜか最近のパット・メセニー&ホールにはならないのが面白いですね。
  後半の萩谷師匠のオクターブ奏法を駆使した演奏はウェスとホールが共演
  したみたいな盛り上がりで、これもまた楽しい。
  
2. マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ
  この曲では、萩谷師匠がまずリードでスタート。セカンド・ソロを中牟礼
  さんが引き継ぎ、またすぐ師匠に交替してロングソロとなり、そのあと
  最後に中牟礼さんがまた少しだけソロを弾いてエンディングという、よく
  分からない構成。まさか雰囲気で展開を決めていたとか?
  しかし、ここで二人のギターの質感の違いがよく確認できます。
  『Jazz Life』のインタビューでもありましたが、萩谷師匠はピック弾き
  だと弾きすぎてしまうので、親指弾きで音数を抑えるようにしているとの
  こと。音数が多いと「音が軽くなるから」ということです。
  しかし、「三つ子の魂百までも(笑)」で親指でもアップダウンを難なく
  こなしてしまうため、またついつい弾いてしまっている、ということでし
  た。
  音が軽くなっているということに対する反論は置いておいて、私たちファ
  ンにとって、ギタリスト萩谷清の魅力は速弾き(音数)も含めて足し算の
  ギターです。 頻繁なギヤチェンジによる多彩なリズム形、チャレンジャ
  ブルなスケールづかい、うかうかバッキングしているとその強力さで、
  リズムのアタマをもっていかれかねないポリリズム的な面白さ、どんどん
  加速して熱くなるスピードドライビングのような魅力だと思います。
  かたや中牟礼さんのギターは、それこそ音数を減らし、なにより音と音の
  あいだの間が雄弁なギターです。 引き算のギターといえなくもありませ
  んが、そういってしまうにはかなり積極的な休符のチカラを感じさせる。
  だからどんなにテンポダウンしていてもゆるい感じがまったくしないんです。 
  そして、体感温度はあくまでもひんやりとしている。
  どちらのギターがいいとか、悪いとかではなく、それぞれの持ち味として
  私たちは楽しんでいるわけですが、音楽家の目指す到達点としては最少の
  音で最大の感動を、という境地があるんでしょうね?
  でも、ファンの立場で一言いわせてもらうと、そんなに早く枯れないでほ
  しいな。

3. バグス・グルーブ
  この曲が始まったとき、青江さんと目があった。
  「よかったね、青江さん。好きな曲ばかりやってもらえて」
  そう言うと、「もちろんそうなんだけど、またこのデュオっていうスタイル
  がいいねー。ギター二本がどうやっているかよく判るし、ふだん他の楽器の
  音にかくれているバッキングの技がよく聴こえるのがいい」
  そうか、青江さんはいつも忙しがっていて、師匠のデュオスタイルの演奏を
  聴いたことがなかったんだよね?
  それどころか、トリオでのジャズスタイルの萩谷師匠もあんまり聴いていな
  いんじゃない? それじゃ京都Vin-centでも新鮮だったでしょ?
  いかんですよ、もうちょっと足繁くライブにこなくちゃね。
  そして二人でもうちょっとギターを練習して、ここまでじゃなくてもデュオ
  が出来るようになって持ちネタにしましょう。
  (このバグス・グルーブはエンペラが初めてVに行った日に、青江さんと
   合奏した想い出のナンバーなのです。 あの頃はまだ私、ジャズを知らず
   3コードだけで、チョーキングぐいんぐいんやっていたんですけどね・・)

4. 黒いオルフェ
  うっ、また本物が! 我が家にある、渡辺貞夫の「イパネマの娘」という
  アルバム。これは60年代後半のレコードで、日本人によるボサ・ノヴァの
  草分け的録音だったはず。そこでギターを弾いていたのが中牟礼さん。
  そして、定評ある萩谷師匠のボサ・ノヴァ・バッキング。
  完全無欠の名演です。

中休みの間、ミーハーと化したエンペラと青江会長は、
中牟礼さんと師匠のところへ駆けつけ、
「いやー、メロディラインもよければ、バッキングのベースラインもすばらしい!」
「師匠も中牟礼さんも、そんなに大きな手じゃないはずなのに要所要所では
  かなりストレッチするコードがさりげなくきまっていますね!」
などと話しかけたところ、中牟礼さんは、
「そう、手はちっちゃいんだけどこれが届くんだよね。もって行き方の方向があるんだよ」
「この二人もギターを弾くんですよ」と師匠がフォロー。
 (はたして「弾く」というレベルなのか? 申し訳ない気がする・・・)
「そうか、それでそんなことを言うのか。 そういう聴き方をされたんじゃ・・・」
 (ドキッ!)
「嬉しくなっちゃうよねぇ」
 (ホッ・・。)

■第2セット
1. 酒とバラの日々
  さて第2セットはゲスト(?)に昨年12月にバークリー音楽院を卒業して
  帰国したばかりの新進ギタリスト、浜中ヨウスケさんがジョイント。
  BRBクラブの知り合い関係というこの人は、弱冠23歳。休憩中からかなり
  緊張した様子で、自分の席で一生懸命練習していました。
  萩谷師匠がバッキングをつけ、なかなかしゃれたアドリブラインを披露。
  しかし緊張のせいかなんとなく据わりが悪く、さすがに先輩達のように
  どっしりとはなかなかいかないようだ。
  
2. ボディ・アンド・ソウル
  中牟礼さんのほぼソロギターのような演奏で、ところどころで萩谷師匠が
  コードでサポート。後半ソロを交替する箇所もあり。

3. マイ・ファニー・バレンタイン
  今度は中牟礼さんの完全ソロギター。ギターのラインはデュオのときと
  あまり変わらないもので、メロディを弾いてはすかさずコードまじりの
  オブリを入れるというスタイル。当然単音だけになったり、何も音のない
  瞬間ができてくるのだけれど、それで演奏に過不足がまったく生じないの
  がすばらしい。

4. ヒアズ・ザット・レイニー・デイ
   〜 ヒア・ゼア・アンド・エブリウェア
  バトンタッチで今度は萩谷師匠のソロコーナー。
  こちらはメロディライン、ベースラン、コード、ハーモニクスまで総動員
  しての華麗なもの。中牟礼先輩の感想が聞いてみたいですね?

5. アローン・トゥゲザー
  「二人ぼっち」というタイトルのこの演奏。ジム・ホールとロン・カーター
  の名演でも知られる曲ですが、まさに今夜の二人のためにあるような曲です
  ね。 深い尊敬と愛がにじみ出てくるようなすばらしい演奏でした。

6. オール・ザ・シングス・ユー・アー
  ときどきアバンギャルドになるジム・ホールのような変奏で始まって、
  ついにはワルツになってしまいました。

7. 朝日の如くさわやかに
  『アローン・トゥゲザー』の直後にリクエストしたら、
  「曲想が似てるからダメ」と却下されたのですが、一曲おいてから応えて
  いただきました。
  やってもらったら、さすがに最高。 曲はそんなに似ていないし、だいいち
  この曲を好きな人って多いんですよ。
  ただ、ファンキーになりすぎることがあって、演奏者によっては泥臭くも
  なりやすい曲ですが、二人の持ち味でそうはなりようがない。
  このCm, Am7b5, Dm7, G7って黄金のコード進行ですよね!


■幻の第3セット(銀座V編)

BBSでの予告通り、BRBを撤収した管理人さんは、ほどなく銀座Vに来てくれました。
しかし、私は少し気が重かった・・。
だって、最近忙しすぎて(何で?)ギターの練習をずっとサボってるんだもん。
師匠の前で弾くことになったら・・恥ずかしい!

そーだ、いまVにはエレキギターは一本しかないんだ。師匠がみえたらエレキを渡し
っぱなしにして、私はフォークでペンペンやってお茶を濁そう。
などと考えながらVに行ってみたら・・・・・。
やばい!ギター◯チガイ毒太カタクラが新品のディアンジェリコを持ってきてやがった!
彼はピアノのまりちゃんと同じ大学病院の歯医者さんで、最近Vにハマって足繁く通って
いる人です。自宅にはギターが50本くらい置いてあるらしい。
それもギブソン・オールドとか、高いギターばっかし。バカだねー。
この人、そういういいギターをとっかえひっかえ持ってきては、
「エンペラさん、弾いてくださいよー」と貸してくれるいい人なんですが、
ソロを1コーラスくらいで弾くのをやめると、「う〜ん、意気地なしっ!」と人を責める
悪い癖があります。(男性28歳です)
ともあれ、師匠がくる前にやることはさっさと済ませておこうと、トニー松前たちと
お定まりのナンバーをやっていると・・・あらら、もう師匠が到着してしまった。

まあ、それからのことは私もかなり酔っぱらっていたため、よく憶えていないのだが
(何せBRBクラブは3,000円ポッキリで本当に飲み放題、相当いただいていた・・)、
師匠とのブルースを演奏中、ヤバイと思った私は、自分が弾いていたヤマハのセミアコを
毒太に押しつけた。
その毒太が、どなたと弾いているか、分かってか分からずか、いい調子でソロを弾きだした
から、私はなんだか悔しくなり、「ねぇ青江さん、こいつ新人のくせに調子こいてるよね?
シメてやる必要があるんじゃない?」 すると青江さんは青江さんで、
「うん、そうだ腹立つよなー。 ちょっとガツンと言って聞かせなくちゃな!」
などと言っていたような・・・。

そうだ、これだけはよく憶えている! 
「うふふふふ、なんだかとってもいい気分だなー」と毒太カタクラがほざいていた。